学校の宿題とエルベの宿題のとらえ方
今回は、家庭学習をテーマに、宿題の目的と意義、その取り組み方について述べます。ご存知のように、教室では、子ど も一人ひとりの現状と課題を把握し、明確な目標を立てて学習 内容そして宿題を組んでいます。教室の宿題は、家庭学習の 軸とし、特にはじめは親子が向き合い、子どもがしっかりと指 示を理解し応じる力をつけること、さらには家庭学習の習慣を 築くことを目的としています。教室での学習と合わせて家庭で 根気よく基礎学習に取り組み、「大人の指示に応じられた」「約 束事を守れた」「根気強く取り組んだ」という経験を積み上げ、 その中で子どもが「できた」と実感していくことが、彼らの学ぶ 意欲を引き出し、成長そして自立へとつながると考えています。
その一方、学校の宿題は、家庭において学校での学習の様子を把握し、授業内容の習得確認と自立して学習をすることを 身に付けるためのものです。しかし、実際には、宿題の内容 が子どもの現在の力に合っていないことや、自立して取り組める内容ではないことも多い上、「宿題・プリントをこなすこと」 に親も子どもも頭がいっぱいになりやすく、負担に感じたり、 有意義に取り組めるようになるのに試行錯誤が必要なことが多いようです。
暗算力について
ロサンゼルス教室では、保護者より現地校の宿題について の質問をよくいただきますが、1か月ほど前に見せていただい た 2 年生の算数の宿題を一つご紹介したいと思います。その宿題では、日本の2年生でも学習する2桁の計算が取り上げら れ、設問の一つに、「74-28を計算しなさい」というものがあ りました。アメリカで従来の教育を受けた親や日本人の親を含め、ほとんどの方が、①十の位から1くり下げて14 -8= 6 ②1くり下げた十の位で6-2=4 ③よって答えは「46」 と、一の位と十の位をそれぞれ処理すると思いますが、その宿題では次のような解き方が教えられていました。
(下線部分は穴埋め形式)
74−28=
① 28+40=68
② 68+ 2=70
③ 70+ 4=74
④ よって答えは 40+ 2+ 4=46
ひき算とたし算を使い、何十(20や40など)の数字を使って解く考え方として教えられているのですが、手順が煩雑で、 適切なスピードで正確に計算ができるようになるとは思えません。また、ネイティブの保護者でもこの手の宿題で、どう子どもに教えればいいのか分からない、ステップが多すぎるなどと、 批判の声が上がっています。 現地校の算数では、上記のように暗算力強化に力を入れず、 計算の考え方や説明、文章題などに重点が置かれている傾向 が強くみられます。これは、2014年に学習指導要領Common Core(コモンコア)が各州で導入されてから見られるようにな りました。Common Core(コモンコア)の算数では「概念理解」 「答えにいたる過程の説明ができる」等が大きな目標として掲げられており、確かに重要な目標ですが、概念理解の土台となるべき計算力、つまり頭の中で数字を整理して処理する力が 低学年のうちに十分に時間がかけられず、計算などの処理に時間がかかる、正確にできないなどの問題が出ています。学年が上がるにつれそのような問題が顕著に現れます。中・高学年以上の子どもたちを指導していると、基本計算のような基盤となる学習が長いスパンでいかに大切なのか、よく分かります。
話しがそれましたが、大事なことは、現地校の宿題に振り回されないよう注意が必要です。上記の2年生のケースでは、宿題の答え方は保護者が援助しつつ、これまで取り組んできた基本計算をつかって、一の位と十の位でステップの少ない従来 の計算の定着に時間をかけています。今後使える力になるように、ということを保護者もよく理解されて対応されています。
学校での学習内容の把握
もう一つの留意点ですが、こちらでは教科書を使うことが少ないため、特に低学年のうちは学校での学習中の内容が把握しにくいことがあります。日本であれば、教科書を見れば内容 や大方の進度が明確ですが、現地校では学校によって、時には各クラスによってまちまちです。あらかじめ担任が指導案を 用意しているようではないので、子どもが学習内容を説明することが難しい場合は特に、学校で行ったプリントや宿題を通し て学校での学習内容を把握することになります。学校の宿題があまりにも子どもの力とかけ離れている場合は、担任の先生に 早めに相談するようにお伝えしています。また、高学年・中学生以上で学校の宿題が難しかったり、ガイドライン等が不明瞭 な場合は、それまでのノートや教材を確認させたり、自分から先生に質問をするように促し、どのように対応すべきなのかを教えていくことが大切です。
学習の目的を忘れずに
宿題を含めた家庭学習において、一番大変なのは、子どもが指示に応じず、なかなか机に向かわない、向かっても怒っ たり口答えがあったり、気持ちが向いていないような状況です。 特に教室で学習をはじめたばかりの子どもや就学前の子供の 場合に多いようです。家庭での接し方については教室で学習されている方はよく理解されていると思いますが、ここで、宿題自体が負担の原因であるといって問題の矛先を誤ったほうへ 向けてしまうと、指示に応じる姿勢や自分からコツコツ取り組 む姿勢を育てる大切な機会を逃すことになります。
一つの工夫として、学習を始めるときは、あいさつから始め、学習とは関係のないトピックから受け答えをしたり、子どもが 受け入れやすいように工夫をし、学習の基本的な姿勢を思い起こしながら学習へと導いていくことです。これは教室の宿題でも学校の宿題でも同じだと思います。
もう一つ、中・高学年以降で問題になりやすいのは、子どもが宿題や提出日、クイズ・テスト日を把握できていない場合です。こちらでは、学校の担任にもよりますが、低学年のうち は、宿題フォルダーというものを使い、説明やプリントなども すべて先生が用意して配るケースが多いようです。これは大変親切で効率的ですが、日本の小学校のように宿題や持ち物を 連絡帳に書き留める習慣がつかないため、小学校高学年、中学校になって、まとめて手渡しをされなくなると、提出日を把握できていない、期日を守る大切さを理解できていないなどの問題が出てきます。さらに、最近では、オンラインで宿題が掲載されたり、提出をしたりすることも増えていて、宿題のシ ステムや要領を理解できていないと困ったことになります。覚えるのが苦手な子どもは、いうまでもありませんが、授業中に先生の話はしっかりと聞く、ノートやメモをしっかりと書き留める、不明なことがあればすぐに先生に聞く、オンラインで毎日宿題等を確認する、そして計画表やプラナーを上手に使うなど、 具体的にどうすればいいのか教室でも指導しています。
繰り返しになりますが、有意義な家庭学習を成立させるには、宿題の目的を念頭に置き、効果的な接し方を心得ること で少しずつ円滑に進むようになります。家庭学習や宿題は負担ととらえず、生活全般においても良い影響を与える(自己責任を学ぶよい道具)ためのものであると考えていくことです。
エルベテーク季刊誌2019年新年号 アメリカからのレポートより